最近の法改正

債権法改正

●保証について(準備中)

詐害行為取消権

法定利率が変わります




相続法改正

遺言執行者に関する見直し

特別の寄与の制度が新設されました

配偶者居住権

遺言制度に関する見直し

 



詐欺行為取消権

1 従前の扱い

 詐害行為取消権とは、債務者が債権者を害することを知って法律行為(詐害行為)をした場合、債権者は、自らの債権を保全するために、詐害行為の取消を裁判所に請求することができるというものです。 
 これまでは、具体的な詐害行為取消権の要件、効果、行使方法について、明文の規定がなく、判例通説によって様々な解釈論が展開されてきました。


2 改正内容

(1)判例通説の明文化

①被保全債権について
・詐害行為の前の原因に基づいて生じたものでなければならないという判例通説を424条第3項で明記しました。
・被保全債権は強制執行による実現可能性のあるものでなければならないという通説を424条第4項で明記しました。

②行使方法について
・債権者は、詐害行為取消請求において、詐害行為の取消しとともに受益者又は転得者に対する逸出財産の返還請求、返還が困難な場合は価額の償還請求ができるという通説を、424条の6第1項で明文化しました。
・詐害行為取消の対象財産が可分の場合、債権者の被保全債権の額の限度でのみ取消請求できるという判例通説を、424条の8で明文化しました。
・債権者は受益者又は転得者に逸出財産の返還請求をする場合、その財産が動産又は金銭であるときは、直接、自己へ引き渡すことを求めることができるという判例通説を、424条の9で明文化しました。

(2)判例法理の変更

①詐害行為性が問題となる行為について
 債務者が破産する場合、債務者の債権者を害する行為が判明すると、否認対象として問題になります。ところが、平成16年破産法改正により、破産法上は否認対象とならない行為が、判例法理によれば民法の詐害行為取消の対象になりうるという不整合が生じていました。そこで、判例法理を変更して破産法との整合を図るために、次の点において改正がなされました。
・相当の対価を得てした財産の処分行為(424条の2)
 原則として詐害行為性を否定し、例外的に、ⅰ隠匿等の処分のおそれを現実に生じさせるものであり、ⅱ行為時に債務者が隠匿等の処分をする意思を有し、行為時に受益者がⅱについて悪意である場合に限り、詐害行為性が認められることとしました。
・特定の債権者に対する担保供与・債務消滅行為(424条の3)
 債務者が支払不能となる前の弁済等については詐害行為性を否定しました。
債務者が支払不能状態であって、特定の債権者と通謀して他の債権者を害する意図をもってなされた弁済等のみ詐害行為性が認められるものとしました。通謀詐害意図まで要求する点で、破産法上の偏波弁済よりも範囲が狭いことになります。
 債務者の義務に属しない弁済等である場合(期限前弁済等)は、支払不能になる前30日以内の行為であって、債務者に通謀詐害意図が認められる場合のみ、詐害行為性が認められることとなりました。
・過大な代物弁済等(424条の4)
 424条の3の要件(支払不能+通謀詐害意図)に該当する場合は、全部取消請求できるが、同条の要件に該当しない場合でも、過大な代物弁済等は、過大な部分に限り取消請求可能であることを規定しました。

②転得者に対する行使要件(424条の5)
 従前の判例は、受益者が善意でも転得者が悪意であれば、転得者に対する詐害行為取消請求できるとしていましたが、善意の受益者の保護に欠けるとの批判がありました。
 そこで、破産法と同様に、取引保護の見地から、受益者と全ての転得者が転得時に悪意 であることを要件とし、一旦、善意者を経由すれば、詐害行為取消請求できないこととしました。

③詐害行為取消権の効果
 旧法では「すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる」とされ、債務者には効力が及ばない(相対効)と解されていました。
 しかし、新法では、「債務者及びその全ての債権者に対しても効力を有する」として、債務者にも判決効が及ぶことが明記されました(425条)。
 一方、受益者・転得者の保護のため、詐害行為が取り消された場合には、詐害行為により消滅した受益者又は転得者の権利が回復することが明記されました(425条の2~4)。

(3)その他

①提訴期間(426条)
 これまでの時効の規定を「提訴期間」と改め、以下のように規定されました。

    

 「提訴期間」とされたことにより、時効中断等により期間が延長されることはなくなり、また、長期が20年から10年に短縮され、法律関係が長期間不安定になるという問題が解消されました。
 短期の起算点が、従前は「取消の原因を知った時から2年間」とされていたのが、上記のとおり修正されましたが、判例法理により、そのように解釈されていたのが明文化されたものであり、実務上の変更はありません。

②経過措置
 施行日前に詐害行為がなされた場合は、旧法が適用されます(附則19条)。


3 実務に与える影響

 破産法との不整合が解消され、要件・効果が明文化されたことにより、利用しやすい制度になったといえます。

                       2019年11月 弁護士 酒井桃子




 

法定利率が変わります


(1)従前の扱い

 金銭消費貸借契約において利息を支払う旨の合意はあっても、約定利率を定めていなかった場合、法定利率が適用されます。今回の改正前は、利率は、原則として年5分とされており(民事法定利率・旧民法404条)、商行為によって生じた場合は年6分とされていました(商事法定利率・旧商法514条)。
 しかし、年5分あるいは年6分という法定利率は、低金利の状態が続く現状と大きくかけ離れているという問題がありました。一方、市中金利が大きく変わるたびに法改正をして法定利率を変えるのは困難であり、将来的に再び市中の金利動向と大きくかけ離れないようにする必要がありました。

(2)改正の内容

 そこで、改正法は、改正法施行時の法定利率を3%と定めるとともに(改正民法404条2項)、市中金利動向に合わせて自動的に法定利率が変動するよう定めました。なお、商事法定利率の条文も廃止されるため、改正後は、商行為によって生じた債務も、民法の法定金利に統一されることになります。
 変動制を定める改正民法404条3項ないし5項の条文は分かりにくいですが、次の図のとおり、3年ごとに法定利率を見直すこととし、6年前から前々年までの過去5年間の銀行の短期貸付の平均金利を基準割合として(改正法404条5項)、基準割合の変動が直近の変動期の基準割合と比較して1%以上変動した場合には、法定利率も1%刻みで変動するという緩やかな変動制を導入しました。例えば、2026年の見直し時には、基準割合②と基準割合③を比較して0.5%しか金利が上がらなければ、1%に満たないため、法定金利は3%のままとなります。これに対して、例えば、基準割合②と基準割合③と比較して、1.5%金利が上がっていたのであれば、法定金利は1%上昇して4%となります。


 また、改正民法が変動制を採用したといっても、それは、例えば銀行の住宅ローンの変動金利のように変動した金利に合わせて途中で計算しなおしたりするものではなく、一旦利率が決まればその後法定利率が変動しても変わらないものです。そこで、基準時、すなわち、いつの時点の法定利率が適用されるかが問題となります。
 利息の場合においては、「利息が生じた最初の時点」が基準時となり、その時点の法定利率が適用されます(改正民法404条1項)。
 また、遅延損害金についても(従来通り、約定利率が決められていなければ法定利率によることになります)、その基準時は「遅滞の責任を負った最初の時点」になります(改正民法419条1項)。たとえば、不法行為に基づく損害賠償請求の場合、不法行為と同時に遅滞に陥るため、不法行為がなされた時点の法定利率が適用されます。
 さらに、中間利息控除についても、これまで判例により法定利率が用いられてきましたが、改正法ではそれが明文化されました。
中間利息控除とは、交通事故など不法行為に基づく損害賠償請求権の損害額の算定において、将来発生する逸失利益を現時点で算定して損害額を確定する必要があることから、現時点から将来逸失利益が発生したであろう時までの利息相当額(中間利息)を控除することをいいます。この中間利息の基準時について、改正法は「損害賠償請求権が生じた時点」と定められました(改正民法417条の2第1項)。したがって、例えば、不法行為に基づく損害賠償請求権では、損害賠償請求権は不法行為時に発生するため、不法行為時の法定利率が適用されることになります。

(3)実務に与える影響

その1

 改正法が施行される2020年4月1日から2023年3月31日までは法定利率は3%ですが、変動制が採用されたためその後は自動的に法定利率が変動する可能性があります。したがって、法定利率にこれまで以上に注意する必要があるでしょう(なお、変動後の法定利率の周知方法についてはまだ具体的に決められておりませんが、官報や法務省のホームページへ記載されることが考えられます)。ただ、緩やかな変動制を採用しているため、急激な変動はなく、また、基準時時点の法定利率だけに留意していれば足りるため、債権管理等への支障はそれほど大きくないと思われます。
  なお、近年の銀行の市中貸出金利は1%を切っており(上記の図でいえば、基準割合①が1%以下であるため)、今後さらに1%以上市中貸出金利が下がるということは考えにくく、したがって、法定金利は3%以下になることはないと思われます。

その2

前述のとおり、法定利率は中間利息控除にも用いられることが改正法で明文 
化されたため、例えば、交通事故などの逸失利益の算定に大きく影響を及ぼすと考えられます。これまでは5%を前提として中間利息を控除してきましたが、これが3%になれば、控除される中間利息が少なくなるため、賠償額が増額する可能性があります。そのため、損害保険を扱っている保険会社においては、保険料の見直しがなされることも予想されます。

                       2019年11月 弁護士 関戸康之




遺言執行者に関する見直し

1 遺言執行者の地位の明確化

(1)従前の扱い

 旧法では,遺言執行者は「相続人の代理人とみなす」(旧1015条)とだけ規定されていました。そのため,遺言者の意思と相続人の利益が対立する場合に,遺言執行者と相続人の間でトラブルになることがありました。

(2)改正の内容

 そこで改正法では,「遺言の内容を実現するため,相続財産の管理その他執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」とされ(民法1012条1項),遺言者の意思と相続人の利益が対立する場合においても,遺言執行者はあくまでも遺言者の意思に従って職務を行えばよいことになりました。
 遺贈の履行は遺言執行者のみが行います(民法1012条2項)。
 また,「相続人に対して直接にその効力を生ずる」(民法1015条)と定められ,遺言執行者の行為の効果は相続人に帰属することが明確になりました。

(3)実務への影響

遺言執行者の法的地位が明確にされたことで,相続人の意思に惑わされなく遺言者の意思にそって遺言執行者ができるようになりました。


2 遺言執行者の権限の明確化

(1)従来の扱い

 遺産に属する特定の財産を共同相続人の1人又は数人に承継させる内容の遺言がある場合(相続であって遺贈ではない場合),その相続人は直ちにその遺産を確定的に取得するとされています。したがって、特定の物を相続人に相続させる遺言があった場合は,遺言執行者は相続人への引渡義務を負わず、受益相続人は、直ちにその物の所有権を取得し占有・管理ができます。
 不動産についてもその相続人の単独の登記申請が認められます。そのため,遺言執行者は不動産登記手続きに関しては,権利も義務もないとされてきました。
 また、預貯金の解約や払戻は、多くの銀行において遺言執行者が行うことも認められてきましたが、法的権限が曖昧でした。


(2)改正の内容
対抗要件具備権限の付与
しかし,不動産などの対抗要件具備はその権利を完全に移転させるために必要で,また,受益相続人の法定相続分を超える部分については,第三者との関係では対抗問題として処理されることになったので,対抗要件具備行為については重要な行為として,受益相続人とともに遺言執行者もその権限に含めるものとされました(民法1014条2項)。
したがって,財産が債権の場合には,第三者の対抗要件を備えるためには,債務者への確定日付ある通知を行うと共に,相続人への債権証書の引渡しを行うことが必要ですので,遺言執行者はそれを行う権限があります。また,銀行などへの通知の際には,本来の法定相続分を超える場合は遺言書の内容を明らかにしなくてはならないことになりました(民法899条の2)。
対抗要件具備権限の付与預貯金の解約,払戻も遺言執行者が行えることが明記されました(民法1014条3項)。但し,ある金融機関の預貯金債権の一部を特定の相続人に相続させる場合には,全部の預金を解約させるとトラブルが起こるので,遺言執行者が行う解約の申入れは,その預貯金債権の全部が遺言の目的である場合に限られます(同3項但書)。なお,預貯金以外の金融商品については様々なものが考えられ,例えば値段が上限する商品については解約の時期によって損得が生ずるので,遺言執行者の権限付与の規定は設けられませんでした。したがって,解約権限があるかどうかは遺言の解釈に委ねられます。実際上は,相続人の意思を確認しながら実務を行うことになるでしょう。

(3)実務への影響
 
 いずれにしても,遺言執行者の権限が明確にされたことは良いことです。新法では,遺言執行者は任務開始後遅滞なく遺言の内容を相続人に通知することも規定されました(民法1007条)ので,従来よりもトラブルは少なくなるでしょう。
 なお,施行日は2019年7月1日です。但し,施行日後に相続が開始した場合でも,遺言が施行日前に作成された場合は,遺言の中に特定の財産に関するものがあっても改正法は適用されません。
 なお,相続税の問題も重要ですので,専門家と相談してください。今は,平成25年改正内容が維持されており,基礎控除は「3000万円」+法定相続人数×600万円」となっています

                         2019年10月 弁護士 森田太三



特別の寄与の制度が新設されました!

(1)従前の扱い  

 相続人でない者が被相続人の療養看護等に努めた場合、相続人がいない場合には、「特別縁故者」として相続財産の全部又は一部の分与を受けることができます。
 では、相続人がいる場合はどうでしょうか?
 これまでは、相続人がいる場合に、相続人以外の者に分与を認める制度がなく、相続人以外の者は、どんなに被相続人の療養看護等に努めたとしても、相続財産を取得することはできませんでした。
 たとえば、被相続人には長男Aと長女Bがいて、長男Aは早くに亡くなり、相続人は長女Bのみであるという場合、長男の妻Cは、どんなに被相続人の療養看護に努めていたとしても、相続人ではないため、相続財産を取得することはできませんでした。
 このケースでは、長女Bという相続人が存在するため、「特別縁故者」として分与を受けることもできません。長女Bは、被相続人の介護を一切していなかったとしても、相続人として相続財産を全て取得することができます。
 このような事態は不公平ではないかと指摘されていました。

(2)改正の内容

 そこで、改正法は、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人ではない親族)は、相続の開始後、相続人に対し、寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払いを請求できるという「特別の寄与の制度」を新設しました。
 ただし、相続開始及び相続人を知った時から6カ月、相続開始から1年以内に請求しなければならないという期間制限があるので、ご注意ください。

(3)実務に与える影響

 上記の例のように、相続人ではない親族が介護等に貢献した場合、その貢献に報いることができるようになりました。
 ただ、介護等に貢献したのが民法上の「親族」ではない場合、たとえば内縁の夫婦や同性のパートナーなど実質的には家族同然の者であっても、「特別の寄与の制度」による保護は受けられません。
したがって、法律上の親族ではない者の貢献に報いるためには、遺言を遺しておくことが重要となります。


まとめ
相続人でない者が被相続人の療養看護等に努めた場合
 相続人がいない場合
  「特別縁故者」として相続財産の分与を請求できる
 相続人がいる場合
  民法上の「親族」であれば、「特別寄与料」を相続人に請求できる
  民法上の「親族」以外の者についての制度はなし→遺言が重要

                           

                          2019年5月 弁護士 酒井桃子

 


  


配偶者居住権

第1 配偶者の居住権を保護するための方策

 1 配偶者居住権(1028条以下)

(1) 従来の扱い

 夫と妻が、夫名義の建物で2人だけで生活していたが、夫が死亡したとしましょう。遺産は、夫名義の土地・建物(時価2000万円)と預貯金(2000万円)です。夫の法定相続人は、妻と2人の子で、子は2人とも独立しています。
 上記のような例では、妻と子らの親子関係が良好であれば、子らは、母親が父親の遺産で老後を過ごせるよう配慮して遺産分割をすることになります。
 しかし、親子関係が悪化していると、そのような配慮は期待できず、法定相続分に従い遺産分割をすることが多いでしょう。
 そうすると、妻が住み慣れた家に住み続けるため、土地と建物を相続しようとすると、妻は預貯金を相続できません。遺産全体の評価額は4000万円(土地・建物と預貯金の合計額)、妻の法定相続分は2分の1、子の法定相続分はそれぞれ4分の1ずつですから、妻は時価2000万円の土地・建物を取得すればそれ以上は取得できず、残りの預貯金を子が1000万円ずつ分け合うことになるからです。
 しかし、これでは、妻は住み慣れた家に住み続けることができても、預貯金を全く取得できません。妻自身にあまり預貯金がない場合、妻の今後の生活に支障が生じる可能性があります。

(2) 改正の内容

 そこで、改正法は、残された配偶者保護のため、被相続人の配偶者(生存配偶者)は、被相続人所有だった建物に相続開始時に居住していた場合において、①遺産分割で配偶者居住権を取得するとされたとき、または、②配偶者居住権が遺贈されたときは、その居住建物の全部につき無償で使用収益をする権利(配偶者居住権)を取得するとしました。
 配偶者居住権を取得した生存配偶者は、相続時に「配偶者居住権の財産的価値に相当する金額を相続」したものとされ、その分を具体的相続分から控除されることになります。

(3) 実務に与える影響

 配偶者居住権の創設により、上記の例はどうなるでしょうか。
例えば、配偶者居住権の財産的価値が500万円だとすると、妻は、配偶者居住権のほか、預貯金1500万円を取得できることになりますから、その後の生活費に困ることは少なくなり、説例のような不都合は改善されることになりました。他方、2人の子は、土地・建物及び預貯金500万円を分け合うことになります。
 このように配偶者居住権は、建物使用者(配偶者)と所有者を異にする制度ですので、配偶者と建物の所有者との関係が良好でないと、円滑な運用は難しいと思われます。特に、遺贈により配偶者居住権を取得させる場合は注意が必要でしょう。



 2 配偶者短期居住権(1037条以下)

(1) 従前の扱い

 夫と妻が、夫名義の建物に同居していたが、夫が死亡したとしましょう。夫の法定相続人は、妻と、先妻との間の子2人の合計3名です。夫が死亡するや否や、先妻との間の子2人は、妻に対し、「この建物は私たちの共有だ。あなた(妻)が一人で住み続けるのならば、家賃相当額を直ちに支払ってほしい。」と言い出しました。妻は家賃相当額を支払わなければならないでしょうか。
 従前の判例は、特段の事情のない限り、被相続人の死亡後遺産分割協議が成立するまでの間、使用貸借関係の成立を認め、家賃相当額の支払を不要としていました。この判例を参考にして、今回の改正で創設されたのが配偶者短期居住権です。

(2) 改正の内容

 改正法では、生存配偶者が、被相続人の財産に属した建物を相続開始の時に無償で居住していた場合、次の①及び②の期間、居住建物を無償で使用する権利を有するとしました。

① 居住建物について、配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をする場合、(ア)遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日、または(イ)相続開始の時から6か月を経過した日のいずれか遅い日までの期間(したがって少なくとも6か月間は居住可能)

② ①以外の場合、居住建物取得者は、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申し入れをすることができるが、この申し入れの日から6か月を経過した日までの期間

(3) 実務に与える影響

 配偶者短期居住権は、生存配偶者に一定期間無償で建物に居住することを認め、建物の明渡しを猶予する制度です。
 もともと、被相続人と同居していた生存配偶者は、判例法理で一定の保護は図られていましたが、改正法では、その内容や成立要件が明確に規定され、問題が生じる場面が少なくなり得ると思われます。
 なお、上記1記載の配偶者居住権とは異なり、配偶者短期居住権の場合、短期居住権の取得による利益は具体的相続分には算入されません。

                            2019年3月 弁護士 油木 香

 

遺言制度に関する見直し

 ここでは,自筆証書遺言の方式の緩和と自筆証書遺言の保管制度の創設及び遺言執行者の権限の明確化等についてご説明します。


1 自筆証書遺言の方式の緩和

(1)従来の扱い

 自筆証書遺言(自分で作成する遺言)については,遺言書の全ての文面を自筆で書く必要がありました。例えば,財産が山林,農地,有価証券,貴金属,預金等沢山にわたる場合でも,全て自署しなければ有効と認められませんでした。しかし,これでは作業が大変で,特に高齢者の場合には作成が困難となりますし,間違った場合の訂正も大変でした。

(2)改正の内容

 そこで改正法では,自筆証書遺言の本文は自署が必要ですが,相続財産の目録については自署を要しないとしました(民法968条2項)。したがって,目録はパソコンによる作成や代書でも構いませんし,不動産の全部事項証明書や預金通帳のコピーを目録として使用することもできることになりました。但し,偽造等を防ぐために目録の各ページに本人の署名と押印が必要です。
 本文・目録の加除訂正 加除訂正の方法については従来と同じです(民法968条2項)。本文も目録部分も同じ方法によって加除訂正しなければなりません。目録全体を差し替える場合も注意が必要です。詳しくはご相談ください。

(3)実務の影響

 財産が多種にわたってある場合,また不動産が複数ある場合,これを自筆証書遺言で作成することは大変でした。また,高齢化社会の現在では,手間のかかる方法は敬遠されます。したがって,従来こうした場合は公正証書遺言を作成するのが一般でした。今回の改正法は,この様なケースでの自筆証書遺言の作成を容易にする利点があります。
 但し,自筆証書遺言の作成自体を争う遺言無効の訴えや後日の遺言執行のトラブルを避けることになるかは疑問です。
 死後のトラブルを避けるために慎重に遺言を作成するなら,やはり公正証書遺言の方をお勧めします。
 なお,この改正は平成31年1月13日から施行されています。


2 自筆証書遺言の保管制度

(1)従来の扱い

 公正証書遺言は公証人役場で厳重に保管され,どこの公証人役場に保管されているか検索することができます。しかし,自筆証書遺言を保管する制度はありませんでした。これではせっかく作成しても紛失したり隠匿されることになっては意味がありません。

(2)改正の内容

  そこで改正法では,法務局が遺言書の保管所となることになりました(遺言書保管法2条)。申請は遺言者本人が行い,第三者は行えません。また,自筆証書遺言は封をしない状態で申請します。
法務局では遺言書原本を保管するとともに,保管遺言が災害等で滅失しないよう遺言書をデータ化して画像データも保管します。
 遺言者は,いつでも遺言書の閲覧ができます。また,保管の申請の撤回もでき,遺言書の返還を請求できます。いずれも,本人が保管場所に出向いて申請することが必要です(同6,8条)。
 遺言者が死亡した後は,どこの法務局に対しても,自己(請求者)が相続人,受遺者等となっている遺言書が遺言書保管所に保管されているかどうかを証明した書面(遺言書保管事実証明書)の交付を請求することができます(同10条)。また,その存在が分かれば,関係相続人等はどこの法務局に対しも,遺言書の画像情報等を用いた証明書(遺言書情報証明書)の交付請求や遺言書原本の閲覧請求ができます(同9条)。

(3)実務の影響

  自筆証書遺言の作成が容易になれば,これを適正に保管することも必要になってきますので,一定のニーズがあると思います。そうなれば,親族が死亡した場合には,法務局に遺言書保管事実証明書の交付を請求することが必要となってくるかもしれません。
 但し,法務局は保管するに当たり,その遺言の保管申請が本人によってなされたことは確認できますが,遺言の内容や遺言者に遺言証書を作成できる能力があったかどうかをチェックすることは行いませんから,その点のトラブルは残ります。
 なお,遺言書保管法の施行期日は令和2年7月10日(金)からと定められています。

                            2019年3月 弁護士 森田太三